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採用を成功させるのは組織全体の意識改革!採用学の第一人者 服部泰宏氏が語る採用の課題と成功事例とは(前編)

昨今の働き方の多様化などの影響から、新卒採用のあり方を見直す動きが活発化しています。現代の日本企業は、新卒採用に関してどのような課題を抱えているのでしょうか。また、課題を解決していくためにはどのようなアプローチが有効なのでしょうか。神戸大学大学院経営学研究科の准教授である服部泰宏氏は、新卒採用の課題を解決には「採用学」の考えを実践するのが有効であると説いています。これからの新卒採用の現場ではどのような取り組みが求めれるのか「採用学」の観点から、服部氏にお伺いしました。

採用のミスマッチはロジックとエビデンス防ぐ、それが『採用学』

「採用学」とは採用活動を人事担当者の勘や経験に頼るのではなく、インターンや採用面接などの各プロセスを数値化し、「ロジック(理論)」と「エビデンス(データ分析から導かれた証拠や根拠)」を整理して、より効果的な募集・選考・定着を実現していこうという考え方のことをいいます。

採用にこのような学術的知見に基づいた手法の必要性を説いたきっかけは自らの研究や調査を通じて、採用時の企業と個人間の期待値のズレ、ミスマッチなどさまざまな弊害が生じているということが明らかになったからです。採用や育成のコストだけがかさんでいる現状を早急に改善する必要があると強く感じました。

私が研究を始めた2012年頃、日本における採用の実態は、経験と勘によるところが多く、まだ目新しい取り組みは行われていなかったかと思います。マーケティングや生産管理などの他分野では、解決の手法として早くからデータに基づいた管理が取り入れられていましたが、採用の分野に関しては導入されてこなかったことに疑問を感じていたんです。一方、アメリカではその何十年も前から採用においても学術的知見に基づいたアプローチの重要性は提唱されており、日本でも同様の流れが訪れると私は確信していました。

人事と現場の連携を高め、採用学を取り入れていく

例えば、ある会社において特定の面接の評価データや適性検査の結果がどのくらい入社後の新入社員のパフォーマンスにつながっているかということを分析したときに、ある指標が営業パフォーマンスに直結していることが分かったとします。

そうすると、営業担当者を採用するときには、その指標を重要な指標として採用活動を進めることはできるようになります。しかし、なぜ特定の指標の数値が高いと自社でのパフォーマンスが発揮できているのかという前後関係をあらかじめ説明できるようにならなければいけません。人事担当者は採用学を理解すれば現場の社員に対しても説得力のある説明ができるようになります。

採用学に基づいた採用手法を用いると、自社で求める人材を採用するために採用力の向上を目指したさまざまな施策も検討可能です。また、集めたデータから既存社員がどのような指標でどのパフォーマンスに紐づいているかが明らかになるため、採用時の精度が上がることでしょう。

しかしながら、社内の優秀な人材が必ずしもデータと関連付けられるわけではありません。面接の評価データや適性検査の結果に、現場社員がどのような人材を求めているかをヒアリングを行ったうえで、現場社員の感覚や経験を肉付けしていきながらデータを補強していくとよいでしょう。

このような学術的知見に基づいた手法を採用に活かしていくためには、面接の評価データや適性検査のデータから法則性を見出すことができ、学生を採用するかどうかを判断できる力を持つ人事担当者が必要です。しかしながら日々の面接などで忙しく、データ管理ができていない人事担当者も少なくないため、人事の世界にはまだまだデータから採用の合否を判断できるような人材は少ないのが現状です。そのため採用に携わる人が、少しずつ定量的な結果から判断をすることができるように慣れていくことから始めるのが、まず第一歩といえるでしょう。

また、社内で面接の評価データや適性検査の結果などのデータ活用の重要性を理解してもらうことも非常に大切です。同時に、経営陣などにその重要性を提案するためのコミュニケーション、プレゼンテーション能力などが求められます。

そして分析データの結果を、現場で活かせるように現場社員と求める人物像についてすり合わせる必要がなります。そのためには現場と人事部のコネクションを強固にして、本当に自社に必要な人物像を現場の声とともに固めていくということが重要です。定期的に人事担当者と現場の代表者が意見交換を行える場を設けてみるものよいでしょう。

人事部と配属先の現場が常に連携して、どういう人材を求めるかを定められている企業は少しずつ増えてきているという印象があります。採用手法を変えて新しく優秀な人材を採用できたという会社は、現場と人事部のコネクションが強いということが、調査データからもわかっています。

採用学を生かして採用活動を行っている福井県の建設会社

採用に学術的知見に基づいた手法を用いて採用活動を成功させた例としては、福井県の建設会社の株式会社タッセイ様の事例があります。

タッセイ様は独自開発したトランプ選考など、同窓的な視点で次々と新しい選考方法を生み出し、学生の注目を集めています。

このトランプ選考は、インターンシップの一環として行われ、①情報提供(自社を知ってもらう)、②動機形成(興味を持ってもらう)、③評価(学生を見極める)の3つの機能を有しています。
トランプ選考では、学生の自然な姿が見えやすい「遊び」を通じて、面接のような特殊な環境ではなく仕事の状況に近い環境で評価を行っています。ただし、「遊び」が学生の自然状態を引き出すための条件として、堅苦しい面接ルームとわかるような部屋では行わないこと、選考の一環であると意識させないために採用活動のルールからは独立したルールを作ることなど、事前に感情を表に出せる雰囲気をつくったうえで採用活動を行っています。

通常の面接とは異なる緊張感の少ない状況下で、その人の戦略性を見るなど通常の面接ではなかなか見られない人間性を測っています。これは学生が面接時に感じるプレッシャーを上手く取り除いている好例であるといえます。
このようにこれまでの企業の採用活動で多かった勘や経験には頼らずに、定量的で測定可能な採用手法を取り入れることができれば、応募者が少なくて悩まれている地方中小企業の方の活路を見出せるはずです。

まとめ

優秀な学生を採用し、組織成長を実現するためには採用データを現場の生の声と照らし合わせ、本当に自社に必要な人物像を明確にすることが必要です。また、採用学を採用の現場に取り入れ、優秀な学生を採用するには、採用に関する全社的な意識改革と組織改革が不可欠であることが分かりました。部署の垣根を越えて全社的な採用活動を行えるかどうかが、今後の企業成長に大きく影響を与えてくるのではないでしょうか。


プロフィール

服部 泰宏
(神戸大学大学院経営学研究科准教授)

服部泰宏氏

2009年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。
滋賀大学経済学部専任講師、准教授、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授を経て現職。
主として、日本企業における組織と個人の関わりあいに関する行動科学的研究活動に従事。
2013年以降は、人材の「採用」に関する行動科学的アプローチである「採用学」の確立に向けた研究・活動にも従事。
2010年に第26回組織学会高宮賞を受賞。

 

 


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