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人材育成・研修

なぜ今CHROが必要とされるのか? これからの人事に求められる役割とスキルとは?

日本の少子高齢化やテクノロジーの発展、資本、人材のグローバル化に伴うビジネス環境の変化に対応すべく、2018年10月に設立された一般社団法人日本CHRO協会。人材難の状況の中、CHRO(最高人事責任者)がどのような役割を果たしていくのか、企業の人事担当者はどういったキャリアを歩んでいくべきなのかなど、人事に関するさまざまなことを一般社団法人日本CHRO協会 専務理事の谷口宏氏に伺いました。


今の日本にはリーダーシップを持った人材の育成が必要

どのような経緯で日本CHRO協会は立ち上がりましたか?

谷口氏:
日本企業の競争力を高めるために、世界に通用するリーダーの育成が求められています。

現在、世界のビジネスに大きな影響を与えているのが、デジタル革命です。デジタル革命とは、デジタルテクノロジーを活用することで既存のビジネスモデル自体が大きく変わってしまうことです。この変化により、世界中の企業との競争が激しくなっており、新興国の新しい企業との競争も始まっています。

これまでの高度経済成長を前提とした人材育成や人事管理モデルでは、世界で活躍できるリーダーを育成できません。このような人材を生み出すためのキーワードがCHROであり、1年間の構想を経て2018年10月に一般社団法人日本CHRO協会を設立しました。

設立後にどのような反響がありましたか?また、参加される方はどのような課題を抱えていますか?

谷口氏:
大きなアナウンスはしていませんが、日本CHRO協会の設立母体である日本CFO協会に入っているCFOの方に人事の責任者を紹介していただきながら、徐々に参加者を集めています。CHROラウンドテーブルという、CHROの人だけを集めた勉強会を既に4回開催しました。この勉強会には70社ほど集まり、企業が人事面においてどのような課題を抱えているのかアンケートも実施するなど、ニーズを把握しながら活動を準備しています。人事の方が集まるイベントはありますが、このような人事の役員クラスだけの集まりはなかなかないので、関心や期待を持たれる方が多いです。

問題意識の高い方が多く先進的な事例の紹介や情報交換の場がほしいという要望もいただいています。特にHRテクノロジーへの関心が高いです。人事の方は社外の方との関わりが他の職種の方と比べて少ないようで、先ほどお話ししたテクノロジーも含め、時代に追いついた取り組みができていないということを本人たちも自覚しているようです。年功序列、終身雇用といった日本特有の慣行を一気に変化させることも難しく、また短期的に成果が出るものでもないので、みなさんかなり苦労されているようです。

CHROは「人」の側面から経営戦略の立案・実行を行う

既存の人事部とCHROの違う点はどのような部分でしょうか?

谷口氏:
一番の違いは「CHROは経営者である」ということです。人事部の基本的な仕事は、経営者が立てた方針や戦略に基づいて、採用や育成・労務管理などのオペレーションを現場で行うことです。それに対して、CHROの役割は企業の戦略やミッションの達成に向けた戦略実行を人事の面から引っ張っていくことであり、人事部がやるべき戦略を作ることです。つまり、CHROが戦略を考え、人事部が戦略を実行するというところが大きな違いですね。どのような会社にしたいのか、どのような企業風土・文化にするのかといったことを念頭に置きながら、CHROは人事戦略を考えます。CHROは「人」という経営資源をいかに確保し、どの分野に投資(配分)していくのかを考え、そのための組織や意思決定プロセスを構築していくことが求められます。

また、海外展開を意識した場合、日本と同じような感覚ではなく、現地の労働者の宗教や文化を背景とした価値観、マネジメントスタイルを理解しなければいけません。日本の企業の中には、日本の人事を担当している部署と海外の人事を担当している部署が分かれていることが往々にしてあります。海外を含めた全社的な組織設計をするならば、このように部署を分けるのではなく、CHROを中心として組織を再設計していく必要もあるでしょう。

日本でCHROという役職があまり普及していない原因とは何でしょうか?

谷口氏:
あえて言えばCEO(最高経営責任者)が人事をやっていることでしょうか。CEOは経営方針や事業計画を立てるといった経営のプロです。当然、人事の専門性の高い人もいるでしょう。しかし、人や組織設計のプロばかりではありませんので、そこは人事分野のプロであるCHROに任せる必要があります。CEOの描いた戦略を人や組織を活用していかに実行していくかというのは人事のプロである経営者(CHRO)の仕事であり、例えば戦略や新規事業を実現するために必要な人材が社内にいなければ、外部からアサインしてくるといったことです。このような動きをするCHROが重要だという考えにまだ至っていないと思います。

また、CHROに求められる能力やスキルの幅が広く、モデルとなる人材が充分に育っていないということもあるでしょう。自分の考えを経営陣に上手く伝えられるコミュニケーション能力であったり、組織改革を進めていくリーダーシップ、データに基づいて改善点を見つけられる分析力のほか、最近であればHRテクノロジーを扱えるだけのデジタルに関する知見など、本当に多くのスキルが求められます。

CHROについては、仕事内容があまり知られていないということもあり、人事という仕事がそれほど魅力的でなかったのかもしれません。だからこそ、当協会で啓蒙・推進していく必要があると思います。

これからの人事の役割は「管理」から「デザイン」に変わる

今後、人事部門の役割はどのように変化していくでしょうか?

谷口氏:
今後は「管理」から「デザイン」に役割が変化するのではないかと思います。従来の人事の仕事は、給与計算や労働法務などの管理業務がメインでした。もちろん、そのような業務も重要です。しかし、これからは従業員の満足度や幸福度の向上に焦点を当て、モチベーションの向上や人材の登用をしていくことが求められてきます。

このような役割から考えると、営業などの現場でビジネス経験をしたことがある方が人事担当者になるといったケースも今後増えてくるでしょう。人事だけを続けることも悪くありませんが、海外拠点や現場での経験も求められると思います。

また、ある程度上の役職にいくためには意思決定の訓練も重要だと思います。若いうちからそのような経験を積むことは、大企業の本社などでは難しいと思います。しかし、大企業の子会社や中小・ベンチャー企業であれば、役員として経営判断に携わる経験を積めるチャンスが早くめぐってくる可能性が高いでしょう。そういった経験ができるように、従業員のキャリアパスを考えてあげることも人事の重要な仕事でしょう。

「管理」から「デザイン」という役割の変化に伴い、どのようなスキルや知識を学ぶとよいですか?

谷口氏:
人事に関する最低限の知識とコミュニケーション、リーダーシップ、モチベーションコントロール、分析力などのソフトスキルを学ぶといいと思います。人事に関する最低限の専門知識を持っていると、海外の事例や文化背景の学習や、海外の人事の方と交流がしやすくなります。逆に言うと、そういった知識を持っていなければ、海外の人事の方たちとのやり取り自体が困難になってしまいます。事業のグローバル展開を考えている企業の人事の方にとっては、必須の知識と言えます。

グローバル時代に対応した人材育成を目的とし、日本CHRO協会は先日SHRM(米国人材マネジメント協会)と提携しました。SHRMが提供している体系化されたカリキュラムなどを利用して、ぜひ学んでほしいと思います。これらの知識を身につけるためには、海外を含めた他社事例を知り、社外ネットワークを広げて幅広い知識を持つようにするとよいでしょう。

人事の仕事が魅力的で誇れるものであることを伝えていきたい

日本CHRO協会は今後どのような活動に力を入れていく予定ですか?

谷口氏:
まずはグローバル化に対応できるように、SHRMが提供しているプログラムを使い、HRの専門性を高められるような日本版のカリキュラムを作成していく予定です。また、HRテクノロジーも需要が高いので、事例を紹介できるように取り組んでいます。先日、140社のCHROや人事部長の方にご参加いただいた、「第1回CHROフォーラム・ジャパン2019」では、日本CHRO協会の理事であるHRテクノロジーの第一人者の岩本隆さんや株式会社エクサウィザーズ 代表取締役の石山洸さんに、その活用方法などをお話しいただきました。
まだ、具体的なカリキュラムや情報提供の場の設定はできていませんが、今後はCHROの分科会や意識調査も行っていこうと考えています。

私たちが提供する活動には、CHROをはじめとした経営者や人事の方はもちろん、部下を持ち現場でマネジメントをしている管理職の方にも、ぜひ参加していただきたいです。今、CHROは規模や業種に関係なく同じ問題を抱えています。大企業や中小企業など関係なく、さまざまな規模の企業の方に参加し、交流してほしいと考えています。実際に、東証一部上場の大企業がベンチャー企業の事例から学ぶというケースもあります。

こうした我々の取り組みを通して、人事部門の仕事が魅力的であること、人事部門にいる人が誇りを持てるような部署に変えていければ、これほど嬉しいことはありません。

まとめ

少子高齢化に伴う人材不足やテクノロジーの変化により、人事の仕事や役割が大幅に変わること、そしてそのような状況に対して適切に対応していくために、CHROの存在が不可欠であることが今回の取材で分かりました。これからの人事・CHROには、幅広い知識とスキル・多様な経験が求められ、困難な課題に向き合っていかなくてはならないと思います。しかし、その分やりがいや魅力の幅も広がる職種でもあるといえるでしょう。今回の谷口氏にお話しいただいた内容を参考にして、人事としてのキャリアや持っているスキル・知識について、一度じっくり考えてみてはいかがでしょうか。

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